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2024.10.08 Paris2024 Medalists’ Voices

前を向いて歩み続ける ー 公式戦137連勝の末につかんだオリンピックの頂点(レスリング・藤波朱理)

公式戦137連勝を達成し金メダルを獲得した藤波朱理選手(PHOTO:Bradley Kanaris/PHOTO KISHIMOTO)

藤波 朱理

中学時代より公式戦連勝記録を積み重ねてきた藤波朱理選手が137連勝目を達成したのは、オリンピックの頂点へとたどり着く勝利だった。初出場のパリ2024オリンピックで獲得した金メダルは、オリンピックチャンピオンとなった彼女が描く新たな伝説の幕開けとなった。

前だけを見てレスリングを高める

――金メダル獲得、おめでとうございます。率直にどのような感想をお持ちでしょうか。

 ずっと小さい時からオリンピックチャンピオンになるという夢を持ち、その夢を実現するために今までやってきて、オリンピックを実際に経験してみて想像以上に楽しかったなという思いと、その舞台で一番楽しんで金メダルをとれたことは、これ以上最高なことはないなと思います。

――これで137連勝ということになりました。勝ち続けることでプレッシャーが大きくなったり、負けてないことで不安になったりといったこともあるのではないかと想像するのですが、 連勝記録とはどのように向き合ってきたのでしょうか。

 あまり意識していないというのが正直なところです。前ばかりを見てやってきていますし、勝つという結果より、自分のレスリングを高めるという意識で今までもこれからもやっていくつもりなので、本当に気にしていないです。ただ、その連勝記録をきっかけに、レスリングだったり、藤波朱里だったりをたくさんの人が知るきっかけになればいいとは思います。

――これだけの連勝があるということは、137連勝の前に最後に負けた試合があると思います。 前しか見ていない藤波選手にとっては忘れてしまった出来事かもしれませんが、記憶として残っているでしょうか。その時の悔しさが、今の原動力になっているのでしょうか。

 中学生の頃、最後に負けた試合のことは覚えています。今の原動力になっているということはあまりないのですが、悔しかった思いは今も覚えています。

――3月には肘を脱臼されました。ケガによって傷ついた心と体を戻すのも大変だったと思いますが、どのように乗り越えてきたのでしょうか。

 3月中旬にケガをして、下旬には手術するという選択をしました。その時はオリンピックには間に合わないのではないかといった不安を覚えることもありましたが、 今振り返って言えるのは、あの経験があったからこそ今があるのではないかということです。あのケガは自分に対するメッセージだったと思いますし、そのケガをきっかけに自分を支えてくれている人の存在を感じることもできましたし、ケガした肘を動かせないからこそできる下半身のトレーニングに注力できたことがこのオリンピックにも生きたなと思います。やはり悔しい思いがあったからこそ、オリンピックでの金メダルがより輝くものになったとも思います。

――話を伺っていると、すべての過程をプラスに切り替えていったわけですね。

 本当にそうですね。あの経験があったから、ということを今は言えます。

自らを高めてくれるライバルの存在

――試合を振り返っていただきたいと思います。1回戦、2回戦はフォール勝ち、準決勝も完封でのテクニカルスペリオリティとなりました。自分の中でポイントになった場面、印象に残っているシーンはありますか。

 自信を持ってマットに上がることはできたのですが、昨年10月以来の試合だったので、試合の感覚に対する不安も少しはありました。ただ、1回戦を戦ってみて、自分の動きができたので、「いける」というか「いつも通り」ということを意識してやっていきました。

――観ている側からは圧勝に見えましたが、藤波選手はどのような手応えで戦っていらっしゃったのでしょうか。

 はい。日頃練習していること、 いつも通りの自分のレスリングを出そうということだけ意識してこのオリンピックは挑んでいたので、それを実践することができた結果、このような 結果につながったのかなと思います。ただ、逆に課題も見つかったので、このオリンピックを通して、さらにまた自分は強くなれるなというふうに思いました。

――これだけの強さで金メダルを獲得したうえで、見つかった課題というのは、具体的にどのようなことなのでしょうか。

 本当は練習してきてやりたかった技があったのですが、それができなかった悔しさもあります。もっともっと精度を上げていきたいと思いますし、まだ20歳なのでフィジカル面だったり技術面だったり、もっともっと強くなりたいと思っています。

――3試合が終わって、一夜明けて決勝ということになりました。相手のルシア・ジェペスグスマン選手(エクアドル)とは、昨年の対戦では勝ちましたが7失点しました。どんな準備をして試合に臨んでいったのでしょうか。

 グスマン選手の対策は徹底的にしてきました。去年勝ちはしましたが、悔しさの残る試合で絶対もう一度やりたい選手だったので、オリンピックの舞台で戦えることはすごくうれしく思いましたし、練習の成果をオリンピックの決勝で出すことができて良かったという思いです。

――表彰台ではグスマン選手とも抱擁してお互いたたえ合う様子もすごく印象的でした。グスマン選手が「日本はレスリングのエリートで、一緒に戦えることが素晴らしい」とコメントされていましたね。

 戦うライバルは私自身を高めてくれる存在でもあります。もちろん試合では全力でバチバチに戦うわけですが、マットを降りたらノーサイドでいつも楽しくお話ししていますし、本当に感謝の気持ちを持っています。

――いいですね。レスリングを愛し合っている同志なんですね。

 はい、仲間ですよね。

藤波朱理選手は「ライバルは私自身を高めてくれる存在」だと語る(PHOTO:Koji Aoki/AFLO SPORT)

頂点に立って眺める景色

――連覇が期待されていた須﨑優衣選手が惜しくも銅メダルということになりました。結果的にパリ2024オリンピックのレスリング勢として、藤波選手が女子金メダリスト第1号になりました。藤波選手はどのように受け止めて試合に臨んだのでしょうか。

 自分も衝撃を受けたのですが、やはり自分のやることに集中して挑もうと、本当に気が引き締まる思いがありました。 須﨑選手の東京2020オリンピックの姿を見て、私もあのようになりたいと思ってここまで来たので、どんな結果であれ、憧れの選手であることに変わりはないです。

――藤波俊一コーチ、藤波選手のお父様にとってもうれしい金メダルでしたよね。改めて、お父様はどんな存在ですか。

 4歳からレスリングを始めて、一番近くでここまで育ててもらいました。けんかもしましたし、ぶつかり合うこともあったのですが、今言えるのは、やはり父がいなかったら間違いなくここには立っていないということです。 ただただ、感謝の気持ちです。

――素敵な父娘ですよね。金メダルが決まって、スタンドの皆さんとハイタッチする姿、とくに、試合を控えている女子フリースタイル76kg級の鏡優翔選手が抱き上げて喜びを分かち合うシーンはすごく印象的でした。あの時はどんな感情だったのでしょうか。

 優翔さんとは本当に仲良くさせてもらっています。ケガに苦しんだ時期もお互い励まし合い高め合いながら今ここまできたので、抱きつきに行きたいという思いでした。試合中に優翔さんの声がすごく聞こえていて、パワーをたくさんもらいました。明日からは優翔さんの試合が始まるので、今度は私が喉をつぶすくらい応援して金メダルを見届けたいです。そして、同部屋でもあるので一緒に乾杯したいと思っています(笑)。

――大歓声の中で、鏡選手の声だけがそうやって聞こえるものなのですね。

 はい、優翔さんの声は特別に響いて聞こえました。

――表彰台での笑顔もすごく印象的でした。表彰台のセンターから見る日の丸、聞く君が代。どのような感情が湧いていましたか。

 日の丸が上がり、君が代が流れ……、あれほどの絶景もこんなに最高な瞬間もないと思いました。 ここまでオリンピックを目指してやってきて本当に良かったなという思いです。

――伊調馨選手から日体大は直接指導も受けていたと伺っていますが、オリンピックを4連覇したチャンピオンからどんなことを学ばれたのでしょうか。

 馨さんもオリンピック4連覇ですものね。オリンピックを1回経験してみて、やればやるほど、その馨さんの4連覇のすごさを感じますし、その進化し続ける姿というのはすごく印象的でした。コーチとして一緒にいてくれるのはすごく心強いですし、馨さんみたいに強くなりたいと思います。

オリンピックは最高の舞台

――レスリングの選手たちの体つきもさまざまですよね、藤波選手はどちらかといえば華奢にさえ映ります。体作りで気を付けていることはありますか。

 さまざまなトレーニング、ウエイトトレーニングをするにあたっても、レスリングの動きを意識して、レスリングをするための筋肉を付けることを意識しています。

――筋肉を付けすぎると動きが重くなるということもあるのでしょうか。

 階級制限あるスポーツですし、減量もあるので、本当に使える筋肉を鍛えているという感じです。

――オリンピックが誕生した聖地、フランス・パリでのオリンピックとなりました。鏡選手からの声という話もありましたが、初めて出場して感じたオリンピックの魅力を教えてください。

 やはり、オリンピックは目指すべきところだと感じています。 他の国際大会とは注目度も違いますし、4年に1度という特別感もあるかなと思います。そういうオリンピックの舞台で優勝することを目標にやってきました。オリンピックについて想像してはいましたが、想像以上にオリンピックは最高の舞台でしたし、そこで勝つというのが本当に最高なことなので、子どもたちにも伝えていきたいと思います。

――藤波選手は、レスリングの魅力をどのように伝えていきたいですか。

 レスリングは本当に全身を使う競技です。バランス感覚、筋力、体の使い方も鍛えられますし、幼い時からやっていると他の競技にも活きると思います。ぜひ、レスリングをやってほしいと思います。

――オリンピックチャンピオンとなってますます注目が集まると思います。私たちも応援させていただきたいと思います。さらなる活躍を期待しています。

 ありがとうございます。

藤波朱理選手(PHOTO:YUTAKA/AFLO SPORT)

■プロフィール

藤波朱理(ふじなみ・あかり)
2003年11月11日生まれ。三重県出身。4歳からレスリングを始める。17年、全国中学生選手権女子44kg級で2位となって以降、国内外の大会で優勝をすることになる。中学3年生の時にアジアカデット選手権、U15アジア選手権、世界カデット選手権でも優勝した。高校2年生の時に全日本選手権に初出場し、女子53㎏級で初優勝。翌年の世界選手権の女子53㎏級では、対戦相手に1ポイントも与えず勝利し、金メダルを獲得した。23年の世界選手権、アジア大会でも女子53㎏級でともにメダルを獲得した。24年パリ2024オリンピックでは女子53㎏級で金メダルを獲得。連勝記録を137に伸ばした。日本体育大学所属。

注記載
※本インタビューは2024年8月9日に行われたものです。

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