日本飛込界初となるオリンピックメダル獲得を果たしたのは、弱冠17歳の玉井陸斗選手だった。オリンピック銀メダリストとなった若きアスリート玉井選手が、パリ2024オリンピックの飛込台、そして、表彰台から見た景色とは。
――オリンピックの飛込競技としては史上初のメダル獲得となりました。銀メダル、おめでとうございます。一夜明けて、改めてどのようなお気持ちですか。
ありがとうございます。皆さんからたくさんのメッセージをいただいて、ようやく実感が湧いてきました。
――周囲からの反響も、世界選手権などで活躍された時とはまた違いますか。
はい、全然違いますね。テレビで中継されていたこともあって、中学校時代の友達、連絡していなかった友達、そして、全然覚えていないような人たちからも連絡をもらえています。
――友達や親戚が増えるって言いますもんね、オリンピックで(笑)。
はい。そんな状態かもしれません(笑)。
――少しは眠れたのでしょうか。
3時間くらいは寝られたのですが、やはり全然寝つけなかったです。
――それは、興奮して寝られなかったのですか。
そうですね。興奮して外へ散歩行ってしまうほどでした(笑)。
――試合会場に、指ハートを作りながら笑顔で入場していらっしゃいましたね。非常にリラックスしているように見えました。
はい、リラックスできていました。選手紹介前、選手たちもみんな結構シーンとしていたんですよね。これではまずいと思って、僕から海外の選手たちに話しかけに行ったり、ちょっかいを出しに行ったりして、よりリラックスできる状態にしようと自分から動いていきました。
――それは自分自身をリラックスさせるためという狙いだったのでしょうか。
自分をリラックスさせることもそうですが、みんなで試合を楽しめるように流れをつくれたのかなと思います。
――東京2020オリンピックは無観客開催でしたが、一方、満員の大観衆だったパリ2024オリンピックのアリーナはどのように感じましたか。
東京2020オリンピックは歓声がない試合だったので、もの寂しい気持ちがありました。今回は今までにないほどの歓声を聞くことができて、すごく幸せな気持ちと楽しい気持ちを感じながら試合ができました。
――そして、その中での銀メダル獲得となりました。
はい。すごく楽しみながらできました。
――高校生としては、最高中の最高といっていい夏休みの思い出ですね。
そうですね。すごくいい夏休みの思い出ができました(笑)。
――試合を振り返ってください。予選は2位、準決勝は3位。好調をキープできているように感じました。そして迎えた決勝。最初の4本、素晴らしい試技が続き、曹縁選手(中国)との一騎打ちムードになりました。あの時点で、ご自身はどのようなことをお考えでしたか。
「もしかしたら、金メダルがあるのではないか」という自分への期待がすごく高まっていました。ワクワク感が出てきて、そして、欲が出てしまったというのはありました。
――5本目に挑戦した「307C」という技は、元々苦手意識もあったということでしたが、それでも39.10という得点はご自身としても想定外に低い得点だったのではないかと思います。率直にどのような思いだったのでしょうか。
飛び込んだ瞬間は、「ああ、やっちゃったな」という気持ちになりました。ただ、この5ラウンド目が終わった時点でまだ3位に残っていたので、2位との点差も確認しながら「まだ逆転できるんじゃないかな」と思いました。そうして点差を意識しながら6本目に挑みました。
――そして迎えた最後の6本目、「5255B」は本当に素晴らしい試技でしたね。大きなガッツポーズも見せていましたが、ご自身としてはどのような手応えでしたか。
空中の姿勢だったり、入水だったり、自分の中でも文句のない完璧な演技だったと思います。
――玉井選手が最後の試技を決めた瞬間、4位入賞となったカシエル・ルソー選手(オーストラリア)が満面の笑顔で大きな拍手を送っていたのがすごく印象的でした。そして、得点が出た後も玉井選手と熱く抱擁されていましたよね。カシエル選手も含めて、ライバルの存在はどのように感じていますか。
ライバルでありながら友達、お互い高め合えるような関係だと思います。試合中も会話したり、いい演技ができた時は「良かったね」と言い合ったりしますし、メダルや結果がどうであれ、お互いに賞賛し合える関係だと思っています。
――まだ17歳の高校生ですが、早くから注目を集めてきました。その意味ではプレッシャーを感じることも多いと思います。
緊張しないということもないのですが、選手としてはやるしかありません。そこでプレッシャーに負けてしまっては一流にはなれないと思います。プレッシャーを力に変えられるからこそ、結果もついてきます。自分の力、そして、応援してくださる方々の力も含めて演技を通して表現できたらいいなと思っていました。
――すごく頼もしいですね。東京2020オリンピックからの3年間で、玉井選手ご自身はどのように成長をしてきたと感じていますか。
メンタル面と、あとは、試合に向けての調整の仕方や試合への向き合い方については、すごく成長できたかなと思っています。 2022年の世界選手権でメダルを獲得することができたのですが、それも含めて、この3年間でたくさんの経験を積むことができました。東京2020オリンピック以前のこともそうですが、今までのすべてのことが自分の自信につながっているのと思います。
――ありがとうございます。本当にお疲れ様でした。そして、おめでとうございました。
ありがとうございました。失礼いたします。
玉井陸斗(たまい・りくと)
2006年9月11日生まれ。兵庫県出身。3歳で水泳を始め、小学1年の時に飛込教室で競技の魅力を知り、競技を始める。19年日本室内選手権飛込競技大会10m高飛込で史上最年少優勝を果たす。21年東京2020オリンピックでは7位入賞。22年世界選手権10m高飛込では日本男子史上初となる銀メダルを獲得。24年パリ2024オリンピック10m高飛込決勝では、得意技の『5255B』で出場選手最高点数を記録し、銀メダルを獲得。日本飛込界初のオリンピックメダリストとなった。須磨学園高等学校、JSS宝塚スイミングスクール所属。
注記載
※本インタビューは2024年8月11日に行われたものです。
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