アスリートメッセージ
髙橋選手といえばストレートラインステップシークエンス。ステップしながら直線を進む技のことだが、髙橋選手は高い芸術性と技術力で見るものを圧倒させる。世界選手権のフリーで演じた『オペラ座の怪人』はドラマ性も高く、アスリートというよりも一人の役者が怪人を演じているような錯覚さえ覚えた。
これほどまでに高い芸術表現をどのように習得しているのだろうか。髙橋選手からは次のような答えが返ってきた。
「例えば、『オペラ座の怪人』は、映画やブロードウェイ、劇団四季のミュージカル等いろいろ見ましたが、それらを真似て踊ることはないです。確かに話の内容は知っておいた方がいいですが、氷の上に立ったら、そのとき感じたままに踊る。振り付け自体は変わりませんが、その会場の雰囲気やその時の自分の気持ちの変化によって、演技や踊りの雰囲気も変わっていると思いますよ」
髙橋選手の成長を知る上で何人かのキーパーソンがいる。育ての親であり、現在も指導にあたる長光歌子コーチ。そしてトリノオリンピックでは荒川静香選手を金メダルに導き、2007年世界選手権で優勝した安藤美姫選手の指導者でもあるニコライ・モロゾフコーチ。モロゾフコーチは振り付けにも携わっている。また、高橋選手の衣装はモロゾフコーチの知り合いのダンス衣装のデザイナーが作ったもの。曲とプログラム構成にあったものをモロゾフコーチ自身が選んでいるのだそうだ。
そして忘れてはいけないのが織田信成選手。普段は仲のよい先輩、後輩の間柄だが、切磋琢磨しあう仲でもある。
「僕がシニアの大会に出始めたころは、織田選手はさほど目立つ存在ではなかったのですが、急にぽんと出てきて。あせりましたね。これはやばいと。だから僕もやる気が出た。彼がいなかったら、ここまでの成長もなかったのかもしれません。僕を持ち上げてくれました。彼はそんなつもりはなかったと思いますが(笑)」
(写真提供:アフロスポーツ)
いまやフィギュアスケートは空前の注目度を集めている。とりわけ浅田真央選手や安藤美姫選手など女子の人気は過熱する一方だ。ブームともいえるこの現象。髙橋選手はどうとらえているのだろうか。
「同じような成績を取って、扱われ方が違うのは悔しいですけれども、その反面、女子たちはすごく期待されて、僕らよりもうんとプレッシャーがかかっていると思います。だからどっちもどっちだと思うんです。何はともあれフィギュアスケートが注目されるのはいいことですからね」
注目度が上がり、選手層が厚くなれば、その分日本フィギュアスケート界の向上にもなる。若手の台頭は刺激となり、髙橋選手にとってもプラスの作用をもたらしているようだ。
次の冬季オリンピックの舞台はバンクーバー。その頃、髙橋選手は23歳だ。スケーターとしてもっとも脂がのり、活躍が期待される。
「それまでに何事にも動じない心臓、強いハートを身につけていきたいです。僕は動揺するタイプなので」
2010年、バンクーバー冬季オリンピックを迎えるとき、髙橋選手はダイヤモンドよりも硬く、きらびやかな心臓を手にしているはずだ。
1986年3月16日生まれ
岡山県出身。関西大学文学部在学中。
2002年世界ジュニアフィギュアスケート選手権ハーマル大会優勝。
2005年−2006年ISUフィギュアスケートグランプリファイナル3位、2005年−2006年全日本フィギュアスケート選手権、2006年—2007年全日本フィギュアスケート選手権優勝。 第20回オリンピック冬季競技大会(2006/トリノ)8位、2007年世界フィギュアスケート選手権東京大会2位。現在、ISUランキング1位。