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アスリートメッセージ

馬術 杉谷泰造

馬はごまかしがきかない。
だから毎日乗らないといけない。

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練習風景。まるで本当に馬と対話しているようだ。
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インタビュー中に見せる真剣なまなざし。

17歳でヨーロッパへ渡り、オランダのヘンク・ノーレン厩舎に拠点を置き、ノーレン氏から指導を受けるようになった。馬産国であり、歴史も古いヨーロッパはすべての面で違うからだ。

「日本は島国だから(海外の馬術の流れから)孤立してしまうし、新しいものを取り入れにくい面もあります。向こうは馬に対する接し方からして全然違いますね。肢(脚)のチェックの仕方から、動きの見方まで。馬術という文化の熟成の差というか・・・・・・。週末にテレビをつければ、必ず馬の試合をやってますよ。スポーツでいったらサッカーと競るくらいですね」

馬を速く走らせることを追求する競馬と違い、障害馬術は複雑なものだ。コースの場内に配置された障害を順番に跳んでいくためには、コース取りやスピードをコントロールしていかなければならない。スピードも出しすぎてはいけないが、遅すぎてもいけない。障害を完璧にクリアしても、同じ減点数なら、それに要したタイム差で順位がつく。だからこそ、その馬が持っている限界を熟知していることは絶対条件だ。

「馬は、適当にっていうごまかしがきかないですよ。だから毎日乗らなければいけない。またがった瞬間に『今日はちょっと元気ないな』とかわかるんです」

成績を上げるためにはまず、経験が一番必要だ。20歳で出場したアトランタオリンピックは、馬の方が経験豊富で競技場を知っていて、馬から教えられることばかりだった。そんな状態を克服して、馬をうまくリードできるようになるためにも、試合経験が必要だった。杉谷がヨーロッパを本拠地にする理由のひとつには、毎週試合があるということがある。サーキットが続くときには、休みは月曜日だけで後は毎日試合ということもあるという。

「ヨーロッパではもう、F1のチーム並みですよ。ライダーとアシスタント、獣医さんと装蹄師さんとかがいて。僕のチームは3頭くらい連れて試合に行くけど、トップ選手は6頭くらい連れてきて、週ごとにチームを変えて試合をしてるんです。馬も何試合か使ったら休ませなければいけないから、その間は他の馬で試合に出るんです。僕も今はグランプリで使う馬が2頭いるからうまいサイクルで回せるけど、1頭だとその馬が故障したらそれで終わりですからね」

さらに重要なのが、いい馬との出会いである。アテネオリンピック前に彼は"ラマルーシ"と出会い、2003年はグランプリでも優勝してコンスタントにいい成績が出せるようになった。だがラマルーシがオリンピック本番前にケガをしてしまい、ギリギリで仕上げての挑戦になってしまった。

アテネオリンピックでの杉谷選手。 写真提供:アフロスポーツ

「アテネはアトランタやシドニーよりきつかったですね。初日の予選がボロボロで。でも、今まで乗った馬のなかで一番合っていたし、すごくファイトしてくれる馬なので、最後まで頑張ってくれたんです。だから決勝では120%の力を出せたと思うし。今までで一番印象に残る試合でしたね」

障害はほんの数mm触っただけでもバーが落下してしまう。たった一瞬。それだけの差が勝負を分ける。特にオリンピックと世界選手権は最も障害が大きい。高さ1m60cmで幅は約2m。注意力のある馬はバーに触らないが、注意力がありすぎると怖がって大きい障害を跳ばなくなる。度胸があって注意力もあって、力もある。そんな三拍子が揃った馬なら言うことはないが、そういう馬にはなかなか巡り合えるものではないからこそ、人間と馬がいかに折り合いをつけるかが必要になるのだ。

「トップ50人のなかで誰が勝っても不思議ではないのが障害馬術なんです。その時にベストコンディションで、どれだけ運がいいか(笑)。アテネでも僕は決勝ラウンドでバーを3つ落としたけど、あと数mm高く跳べて落下0で帰って来てたら、決定戦に出場できて銀か銅を獲れてたんですよ。そう考えたら、メダルもそう遠くはないと思うんです」

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