日本オリンピック委員会(JOC)は9月16日、JOCパートナー都市で多くの国際競技大会を開催している兵庫県神戸市との共催で、「第7回JOCスポーツと環境・地域セミナー」を神戸市勤労会館で開催しました。スポーツ界における地球環境保全の必要性について考え、その活動をどのように実践に移していくかを学ぶことを目的に、当日は近畿地区のスポーツ関係者ら約200名が参加し、大変意義のあるセミナーとなりました。
はじめに市原則之JOC副会長兼専務理事が開会の挨拶を行い、「東日本大震災でわが国は未曾有の国難を迎え、私どもは果たしてスポーツ活動をしてもいいのだろうかと大変苦悩しました。しかしロンドンオリンピックまで1年を切り、強い日本をアピールすると同時に、スポーツがいかに国家や国民に貢献できるかということを考える必要もあります。本日は皆様とともに地球環境の現状と、スポーツの取り組みから私たちが果たすべき役割と使命を明確にし、スポーツ文化を豊かに享受する社会の実現を目指し、環境保全活動を実践していただきたいと思います」と話しました。
続いて、神戸市を代表して永井秀憲神戸市教育委員会教育長が挨拶。「神戸市は昭和47年に『人間環境都市宣言』をしています。環境保全のために行政だけでなく、市民の方も一緒になって色々な形で取り組んできましたが、阪神大震災があり、今までやってきたことが元に戻ってしまいました。そんな中、市民の方が一生懸命クリーン作戦を実施し、神戸の町は本当にきれいになりました。また神戸は国際大会の誘致を行う一方で、ヴィッセル神戸(Jリーグ)などプロスポーツチームが活躍し、女子サッカーチームのINAC神戸は、なでしこジャパンに7人の選手を送り込むなどスポーツも盛んです」と、神戸市の特徴について紹介しました。
■第一部:基調対談「知ろう気候変動・しっかりやろう環境保全」
第一部では、水野正人JOC副会長(IOCスポーツと環境委員会委員)をコーディネーターに、JOCスポーツ環境専門部会員であり、国際スケート連盟理事の平松純子さん、日本陸上競技連盟理事の瀬古利彦さん、シンクロナイズドスイミングの鈴木絵美子さんの3名のオリンピアンによる基調対談「知ろう気候変動・しっかりやろう環境保全」が行われました。
はじめに平松さんが、昔のインドアのスケートリンクはアンモニアを冷媒として凍らせていたため、臭いが凄かったことを話しました。水野副会長は、「アンモニアの臭いを抑えるため、1998年の長野オリンピックでは代替のフロン類を冷媒とし、通常の60分の1のアンモニアでリンクを凍らせた」というエピソードを交え、現在はフロン類も環境に良くないということで、新しい冷媒が使われ始めていることを話しました。
瀬古さんはマラソンと環境の関係について、「マラソンは日本では12月から3月がシーズンですが、オリンピックや世界選手権は7、8月に開催するので、夏に走れないといけない。でも暑い夏にマラソンを走るのは大変で、1回走るとリカバリーに1年くらいかかってしまう」と気温がもたらす競技への影響を語り、「マラソンは冬季オリンピックの種目にしてほしい」と場内を沸かせました。また、「観客が沿道で振る旗は、終わった後はただの紙くずになってしまうため廃止しました。マラソンや駅伝の放送車も電気自動車を使ったり、ハイブリッド車を使ったりしています」と日本陸上競技連盟の環境に対する取り組みを紹介しました。
水野副会長は、北京オリンピックの男子マラソンで世界記録保持者(当時)のエチオピアのハイレ・ゲブレシラシエ選手が、大気汚染が体に及ぼす影響を考えて欠場したことを話し、また大会組織委員会がヨウ化銀を使って人工的に雨を降らせたことについては、「環境には良くないと思います」と話しました。
鈴木さんは、プールの水を消毒するために入れられている塩素(カルキ)について、「ずっと塩素の入ったプールで練習していると髪の毛が痛んだり、茶色くなったりしてしまう。昔はよく学校の先生に『髪の毛を染めているのか』と聞かれました」と、自身の経験談を交えながら、その影響を語りました。
そのほか、水野副会長からはIOCと環境問題との歴史やオリンピックにおける環境保全活動が紹介されたり、セミナー参加者全員で考えるスポーツと環境に関するクイズが出題されたりしました。最後に、水野副会長が「スポーツと環境は相関関係があります。私たちは、スポーツを通じて皆様方に環境保全の大切さを知っていただき、実践していただくことをお願いしています。この基調対談を通じて、スポーツには環境問題があって、我々が共通の概念として環境保全のできることをやろうということを知っていただければ大変幸いです」と話し、第一部を締めくくりました。
■第二部:「環境啓発・実践活動に関する報告と討論」
第二部では、佐藤征夫JOC理事・スポーツ環境専門部会部会長がコーディネーターとなり、「環境啓発・実践活動に関する報告と討論」として、日本水泳連盟の佐野和夫会長(JOCスポーツ環境専門部会副部会長)、ヴィッセル神戸の清田美絵さん(営業部企画ユニットリーダー)が、それぞれの団体における環境啓発・実践活動を紹介しました。
最初に日本水泳連盟が今年、環境に配慮したスポーツ団体などの取り組みに対して贈られるIOC「スポーツと環境賞」を受賞したことを報告。受賞の理由となった活動として、紙の削減対策、ペットボトル削減対策、エココンテストの実施などの取り組みを紹介しました。特に、2009年からこれまで大会で関係者やメディアに配布していたリザルト用紙を廃止し、インターネットで配信するようになったことで、年間約189万枚の紙を削減、年間約150本の植林木の伐採を減らしたことが評価されたと佐野会長が説明。今後も都道府県や行政と協力してさらに活動を展開していくと話しました。
ヴィッセル神戸は、2010年3月に「楽天×ヴィッセル神戸 エコプロジェクト」を始動し、ホームタウンへの貢献・還元活動の一環として環境保全活動を実施していることを説明。具体的な活動として、スタジアムでのゴミの分別回収やペットボトルキャップ・リサイクル品の回収などを挙げ、また、スポーツ観戦における世界初の取り組みとして、サポーターが座席で跳んで応援した電気を発電させる「床発電システム」の導入を紹介しました。現在の導入座席は44席で、1試合あたりの発電量は単3乾電池6本分。発電した電気は試合後の誘導灯や懐中電灯として活用している。
清田さんは今後の取り組みについて、「プロジェクトの定着化へ向けて活動を継続させ、参加協力者の拡大及び活動の徹底を目指したい」と話し、「全世界共通のスポーツであるサッカーを通して地球環境を救いたい。床発電をオリンピックやワールドカップで導入できれば」と大きな目標を語りました。
最後に、水野副会長が閉会の挨拶を行い、「いよいよ2020年オリンピック招致が始まりましたが、IOCの評価項目の中に、交通や競技会場、選手村などとは別に『環境』という項目があります。それほど私たちを取り巻く環境問題は深刻さを増してきており、このまま気候変動が続くと、いつか競技そのものができなくなるのではないかという恐怖すらあります。皆さんがもし何かのスポーツと関わり合いがあれば、そのスポーツの世界でできる環境保全を進めて下さい」と締めくくりました。
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