日本オリンピック委員会(JOC)は6月10日、平成27年度「JOCオリンピック教室」を群馬県高崎市の高崎市立吉井西中学校で実施しました。
「JOCオリンピック教室」は、オリンピアン(オリンピック出場経験アスリート)が教師役となり、自身のさまざまな経験を通して感じた“オリンピックバリュー(価値)”などを生徒たちに伝える特別な授業です。中学2年生を対象に、平成23年度から行われており、今年度2校目となるオリンピック教室は、4月3日に「JOCパートナー都市協定」を結んだ同市で初めての開催となりました。
この日の先生を務めたオリンピアンは、2006年トリノオリンピックにスノーボードで出場した鶴岡剣太郎さん。2クラスに「運動の時間(体育館)」と「座学の時間(教室)」を通じて、「エクセレンス(卓越)」「フレンドシップ(友情)」「リスペクト(敬意/尊重)」という3つの「オリンピックバリュー(価値)」が、生徒の日常生活にも生かすことができるものであることを伝えました。
最初の授業は、両クラスとも体育館での「運動の時間」からスタートしました。鶴岡さんは、まずは大きな声で「こんにちは、鶴岡剣太郎です!」と生徒たちにあいさつ。気さくな雰囲気で生徒たちの気持ちをほぐしていき、この授業で守ってほしい3つの約束事「何事も全力でやる」「仲間と協力する」「ルールを守って人の話をよく聞く」を伝えました。
笑顔で鶴岡さんの話を聞いていた生徒たちは準備運動から全力で取り組み、しっかりと体と気持ちのウォーミングアップを済ませた後、3グループに分かれて2種目対抗戦に臨みました。
一つ目の「しっぽ取り鬼」では、まず各グループで、他のグループの“はちまき”を取りにいく人(鬼)を一人決めます。その後残った人全員が手をつないで円になり、その中の一人が“はちまき”を腰につけます。円の中心には「コーン」が置いてあり、“はちまき”を取られないように逃げる際も、このコーンの外には出られません。準備ができたところで鶴岡さんのホイッスルでスタート。“はちまき”を守るグループは、右まわり左まわりと必死で走りながら防御、“はちまき”を取る人も、円のまわりをぐるぐると勢いよく走りました。全3回戦が行われ、1回戦、2回戦の後にはそれぞれ作戦タイムが設けられました。1回戦で“はちまき"を守れなかったチームは、作戦タイムで「こう動けばいいんじゃない?」「役割を変えよう」など意見交換し、結果を良くするために各グループで工夫がされていました。
続く主運動の「大縄跳び(八の字跳び)」では、90秒以内に連続して跳んだ回数を競いました。1回戦から100回以上跳んだチームや、苦戦するチームまで様子はそれぞれ。しかし作戦タイムで「縄の長さを短くして速さを意識しました」「2回目は速く縄を回し過ぎてしまったので、3回目は跳ぶ人のことを考えてふんわり回しました」など各チームともに改善策を出し、1回戦、2回戦の結果を踏まえて、新たな方法にチャレンジしていました。失敗してしまった仲間にも「ゆっくり、無理しないでいいよ」と声を掛けて縄跳びを続けるなど、仲間を気遣い、協力しながら全力で取り組みました。
チーム対抗戦後は、クラス全員で鶴岡さんが出した課題に臨みました。体育館のステージ前に一列に並び、反対側の壁にタッチして元の場所まで戻るというダッシュ競争です。クラス全員がスタート地点から約5m先のラインを越えたら、追いかける鶴岡さんがスタート。ゴールまでに鶴岡さんにタッチされなければ生徒の勝利です。3回戦目で生徒たちが鶴岡さんに勝利。運動の授業のまとめとして鶴岡さんは「ルールをよく聞いて、それを活用したからうまくいったね。最初はできなくても、人の話をよく聞いたらできることもあります。それを最後まで聞けたことが大事なことだと思います」と、最初に決めた「全力で」「仲間と協力し」「ルールを守って、人の話をよく聞く」、という約束が守れたことを確認。次の授業では、この時間で感じたことを踏まえてオリンピックについて学習してもらいますと、座学の予告をして授業を終了しました。
後半は教室での「座学の時間」です。はじめに、鶴岡さんから「みんなにとってオリンピックのイメージは?」と問いかけ、生徒からは、「夢の舞台」、「世界中から優れた選手が集まる場所」などの声が上がりました。その後、鶴岡さんは自身が出場したトリノオリンピックでの映像を流し、快調な滑り出しを見せたものの途中でバランスを崩してしまい、オリンピックでの戦いを終えた場面のあとで、「あのときの失敗は今でも僕の心の中にある」と結果を振り返りました。
続けて、鶴岡さん自身の経験から感じるオリンピックの価値について、自分にとっての「エクセレンス」は、ときめきやひらめきを大事に、あきらめずに競技を続けたこと。「フレンドシップ」は、本来アメリカチームに帯同しているワックスマンが、自分がその人の開発したワックスを使っていたことから、他の大会でもいつも気にかけていてくれた。その人がオリンピックでの自分の滑りに対して、「今までみた中で、今日の滑りが一番良かった。誇りに思う」と、自分のコーチに話してくれたと聞き、納得がいく結果が出せず、残念な気持ちや、周囲への申し訳なさでいっぱいだったレース後、心底救われた気持ちになったときの事を話しました。
また、「リスペクト」として、オリンピックは、競技者だけでなく、観客、スタッフ、関係者多くの人の支えがあってはじめて成立する。自分を支えてくれた人たちに対し常に感謝する気持ちを忘れずにいたいと、自身のエピソードを交えて伝えました。
自身の経験を語った鶴岡さんは、グループディスカッションの課題として「先ほど運動の授業で大縄跳びをしたときに感じたことを思い出しながら、みんなにとってのオリンピックバリューを考えてみよう」と発問しました。一人ひとり意見を出し合ったり、全員で話し合ったりとそれぞれの方法で考える生徒たち。「自分たちにとってエクセレンスは負けないという強い気持ち。フレンドシップは切磋琢磨してみんなで高め合うこと。リスペクトは感謝、どういう人がみんなを支えてくれているかを感じること」など、各グループごとにまとめた意見を発表しました。
鶴岡さんは、「今日の授業でオリンピックバリューという考え方がみんなの生活の中にもあることが分かったと思います。スポーツに限らず、日常生活の中でときめきやわくわくする“点”にもたくさん気が付いてほしいです。その瞬間を見つけることが、みんなの夢や目標につながると思います。また、2020年には東京でオリンピックが開催されます。この授業をきっかけに関心を持ってもらい、何らかの形で関わってもらえたらうれしいです」と授業を締めくくりました。
生徒たちは授業を終えて、「鶴岡先生は元気で、とても楽しい授業でした」「普段は聞けない話が聞けて良かったです」と笑顔で感想を話しました。また「みんなで協力し合うこと、励ましあうことの大切さを感じました。ときめき、全力、協力、感謝、自分も心にこの気持ちを入れて、日々の生活に生かしたいと思います」と、印象に残った言葉を挙げる声もありました。
2クラスの授業を終えて鶴岡さんは「2クラスともに、運動の時間に座学で考えてほしい言葉が出てきていました」と、生徒たちの気付きの早さと表現力に感心したそう。JOCオリンピック教室は4年目となる自身の授業内容については、「もっとこうした方が良かったかな」と改善点を模索。生徒たちにとってたった1度の機会となるオリンピック教室で何をどう伝えるか、より良い方法を探りながら高崎での1日を終えていました。
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