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2024.03.25 その他活動

「令和5年度スポーツと環境カンファレンス」を開催

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令和5年度スポーツと環境カンファレンス(写真:アフロスポーツ)

 日本オリンピック委員会(JOC)は1月31日、Japan Sport Olympic Square14 階「岸清一メモリアルルーム」にて「令和5年度スポーツと環境カンファレンス」を開催しました。本カンファレンスは、JOCが2005年度から開催してきた「JOCスポーツと環境・地域セミナー」と、日本スポーツ協会(JSPO)が2020年度から開催してきた「JSPOスポーツと環境フォーラム」の実績を引継ぎ、スポーツ界が一体となってスポーツと環境に関する課題に対応すべく、2021年度よりJSPOとともに開催しています。2023年度は、各中央競技団体の環境担当者など65名が会場にて参加したほか、JSPO公認スポーツ指導者など442名がオンデマンド形式にて視聴しました。

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開会の挨拶を行った日本スポーツ協会の岩田史昭常務理事(写真:アフロスポーツ)

 はじめに、主催者を代表してJSPOの岩田史昭常務理事が開会の挨拶に立ち、国際オリンピック委員会(IOC)を中心とした国際スポーツ関係団体と気候変動に関する国際連合枠組条約が、2015年のパリ協定の目標達成に向けた意識と行動の強化を図るためにスポーツ気候行動枠組みを2018年に立ち上げたことなど、気候変動への積極的な取り組みがスポーツ界にも求められている現状を説明した上で、「スポーツに関わる私たちにとっては次世代を担う若者、さらに次の世代の人々へスポーツの機会を提供し、スポーツの楽しさを伝えていくためには、スポーツ界が積極的に取り組むべき最も重要なテーマだと考えております。本日は、加盟団体の皆様を始めとした全ての参加者の皆様とともに、環境保護の必要性を考え、どのように実践するかを学び、啓発、実践活動に関する最新情報を提供することを通じて、情報交換、情報共有ができればと考えております」と、本事業の目的を説明しました。

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オープニングレクチャーを行った日本スポーツ協会スポーツ科学研究室の石塚創也研究員(写真:アフロスポーツ)
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オープニングレクチャーを行った東海大学准教授の大津克哉氏(写真:アフロスポーツ)

 続いて、JSPOスポーツ科学研究室の石塚創也研究員と、東海大学准教授でJOCオリンピック・ムーブメント事業専門部会の部会員でもある大津克哉氏がオープニングレクチャーを行いました。まずは石塚研究員が開催趣旨説明を行い、最初にJSPOが2021年度に制作した、地球温暖化によるスポーツと環境への影響をまとめた動画を紹介し、その内容を踏まえ、地球温暖化の問題に対し、IOCのこれまでの取り組みを説明。IOCでは1990年代初めにオリンピック・ムーブメントの3つの柱として「スポーツ」「文化」「環境」を掲げてから積極的に問題解決に取り組んできており、2014年には「オリンピック・アジェンダ2020」を発表、さらに2021年にはオリンピック・ムーブメントの未来に向けた戦略を示した「オリンピック・アジェンダ2020+5」を発表したことを紹介しました。石塚研究員は最後に「このスポーツと環境カンファレンスがこれまで先駆的な取り組みを行ってきた団体から、これから始めようとする団体まで一丸となって取り組む必要性があることを再確認する場になることを期待しています」と参加者へメッセージを送りました。
 続けて大津氏が「スポーツ界で見受けられるエコ活動の実践に関する情報提供と、環境保護の視点からスポーツの持続可能性を目指すための道筋」というテーマで講義を行いました。まず環境問題の現状について紹介した後、持続可能性のスポーツへの応用として、「未来世代に対して資源を配分していく」という時間的な要素と「スポーツによる自然循環と再生能力の保持」という内容的な要素といった持続可能性における2つの原理に加え、「活動時間の短縮によるエネルギー削減を初めとする思想や姿勢」にも応用可能性が見られると説明。その具体例として野球のピッチクロック制度を紹介しました。
続けて、環境に対するスポーツ界の取り組みの事例が紹介されました。渡部暁斗選手(スキー/ノルディック複合)は、CO2排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)で競技活動を行う為の「エコパートナー」を募集しました。これは試合や合宿で1年の3割を海外で過ごし飛行機移動も多い渡部選手が、算出された自身の年間排出量排出量分を広告料とし、パートナーとなった企業のロゴをヘルメットに貼ってPRする一方で、その広告料は自然再生エネルギーへの投資を行うといったものです。
また、アスリートや指導者に対してロールモデルとしての役割を担う必要があると説明した一方で、2022年に開催されたFIFAワールドカップにおいて日本のサポーターによる清掃活動が話題となったように、スポーツ愛好家として個人的に行える環境アクションもあるとして、日常生活における「3つのR(リデュース、リユース、リサイクル)」+Renewable(再生可能資源への代替)の促進」の実行を紹介しました。
最後に大津氏は「スポーツを通じた環境問題への取り組みとして、現場の環境保全は当然のことながら重要ですが、もう一つの側面としてスポーツを通じた環境問題の啓発も重要です。まさに本日のカンファレンスは環境教育の側面です。これから事例報告やオリンピアンの方々とのディスカッションを通して、今後のスポーツ界の目指す方向を明確にしたいと思います」と述べ、オープニングレクチャーが締めくくられました。

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事例報告を行った公益社団法人日本トライアスロン連合の鈴木貴里代常務理事(写真:アフロスポーツ)

 次のプログラムでは3つの事例報告が行われました。
 まず、公益社団法人日本トライアスロン連合の鈴木貴里代常務理事が登壇。温暖化や海洋汚染といった環境問題が競技に与える影響を紹介した後、国際競技連盟であるワールドトライアスロンがサステナビリティガイドラインを作成し、大会運営側にCO2の削減や、リデュース、リユースリサイクルなどに取り組むことを義務づけていると説明しました。続けてトライアスロンの世界最高峰シリーズのうちの1つである「ワールドトライアスロン・パラトライアスロンシリーズ横浜大会」における取り組みを紹介しました。第1回大会が開催された2009年時点では決して綺麗とはいえない水質だったものの、横浜市と一緒に水質浄化に取り組んだ結果、約15年経った現在では水質もよくなり生物も棲むようになったと、鈴木氏は述べました。また、本大会はISO 20121というイベント運営における社会的責任と環境マネジメントシステムに関する要求事項を定めた国際規格の認証を受けており、トライアスロンの大会における模範となっているとのことです。事例紹介の最後に鈴木常務理事は「環境問題が語られる際に『ハチドリのひとしずく』というお話を聞いたことがある方も多いと思います。自然や環境に対して私たちができることはこのひとしずくに過ぎないかもしれませんが、そのひとしずくが集まれば川となり、それがさらに集まれば海となります。私ができることを一つずつやっていこう、実践していこうと心に決めました」とメッセージを送りました。

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事例報告を行った三井不動産株式会社の栗田智仁氏(写真:アフロスポーツ)

 次に、三井不動産株式会社の栗田智仁氏が登壇しました。栗田氏は同社の理念や活動方針について説明した後、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する事例を紹介しました。事例の1つ目として挙げられたのは、皆川賢太郎氏(スキー/アルペン)が代表を務める冬季産業再生機構と共催している植林活動。「植える」「育てる」「使う」という3つのサイクルを通して未来につづく持続可能な森創りに取り組む中で、北海道に保有する約5,000haの森林において同社の従業員が植林を行っています。また、「使う」面でも環境に配慮されており、伐採の適齢期を迎えた木材がグループの施設で使用されている他、名刺としても活用されているとのことでした。2つ目の事例として紹介されたのはJOCと共催している「&EARTH 衣料支援プロジェクト」。こちらは家庭で不要になった衣料品を集めてNPOを通じて世界各国・地域の難民や被災者の方に寄付する活動です。直近では2023年の10月、11月に商業施設でブースを設置し、10日間で約3,600人から16,000kgの衣料を回収したとの実績報告がありました。
 事例紹介の最後に登壇したのは、ミズノ株式会社の水野ショーン氏。同社ではサステナビリティ活動を「MIZUNO CREW 21」という形で1991年から推進していると水野氏が説明し、その中でもCO2削減の観点から事例が紹介されました。商品を製造する過程で二酸化炭素等はどうしても排出されてしまいますが、同社では2030年までにCO2を30%削減することを掲げています。あるランニングシューズではパーツに再生素材や環境負荷が低いものを使用し、なおかつ1足の販売につき2本の植樹を実施することで、そのシューズのサプライチェーン全体を通してCO2削減につなげたとのことでした。また、新幹線のボディーのアルミを再利用してバットを製造した事例では、CO2は97%削減されたことが紹介されました。最後に水野氏は「スポーツの力で社会を変えたいという想いはここにいる皆さんが持っていると思いますので、先ほどひとしずくの話もあったかと思いますが、全スポーツ界が力を結集して行動変容していけたらと思います」と語り、事例紹介のプログラムが終了しました。

 続いて、「気候行動(Climate Action)に関する今後の活動について」をテーマにパネルディスカッションが行われました。大津氏がモデレーターを務め、事例紹介で登壇した鈴木常務理事、栗田氏、水野氏に加えて、オリンピアンの井本直歩子氏(水泳/競泳)、小塚崇彦氏(スケート/フィギュアスケート)、勅使川原郁恵氏(スケート/ショートトラック)がゲストとして参加。オリンピックや競技活動を通しての経験談を交えながら議論を深めました。
 環境に関心のない人にどうすれば意識を向けてもらえるのかというテーマに対し、平和構築や教育に関する活動を発展途上国で行っている井本氏は、「海外のアスリートは『環境問題という地球規模の危機に関して、関心がない人たちの意識を傾ける力を自分たちは持っている』と自覚していて、周りの人たちにしっかりと伝えていこうという責任感を感じます。軽い内容からでも発信したり、十分な知識を得てから発信したりと、そのスタイルはそれぞれなのですが、まずはその意識を持って勉強を始めていくということが大事ではないでしょうか」と語りました。
 また、人々に環境問題に意識を向けてもらうために、声を挙げていく役目をアスリートに担ってもらうためにはどうすれば良いかという議題については「現役選手のときに環境のことを意識していたかというと、そこまでではなかったかもしれません。もしかすると地上で行う競技の多くのアスリートは海の問題に関心がないかもしれませんが、その問題は巡り巡って自分にも影響があるはずです。環境問題が自分の競技に関係することを知る機会が少しでもあれば、徐々に意識は変わってくるのではないかと思います」と小塚氏は述べました。
 勅使川原氏は自身の経験をもとに「長野1998冬季大会に出場した際に、りんごの絞り粕で作られた器を使用しました。スポーツ用品も土に還るようなものや生分解性のものを作っていただけたら、スポーツと環境という面において非常にわかりやすいと思うのですがいかがでしょうか」と質問し、それに対し水野氏は「企業は利益を出す必要があり、環境か利益かどちらを優先するかという場面があります。しかしながらそれがルールなのであれば守らなくてはなりません。声を上げていただき『この競技のウェアではこの素材を使わなければならない』というようにルールが変わっていけば、さらにスポーツが社会を変えていくことに繋がるのでは無いかと思います」と回答しました。
 最後にディスカッションのまとめとして参加者から今後の抱負が語られました。井本氏は「まずリテラシーを高めるというところにポイントを置いて、アスリートやスポーツ団体の方々の学びの場を提供したいと思います。また政策提言などを行いながら、スポーツ界が気候変動対策に進んでいけるような働きをしたいと思います」と述べ、小塚氏は「こういった環境問題について、現役アスリートに向けて話ができる機会があれば意義があることだと思います」と語り、勅使川原氏は「明るい未来のためには『子供たち』というところキーワードになってくると思うので、子どもたちとスポーツをしながら環境問題についても学んでいけるような場が提供できたらいいなと思います」と語りました。
 大津氏は「スポーツと環境の接点に気が付けば、持っている知識が意識に変わります。そうなったらできることからひとつずつ行動していき、そして行動する人数が増えればスポーツを通じて社会を変える大きな力になっていきます」と語り、続けて「まずは環境に対して興味を持つこと、そして自分のできることから行動すること、この考え方を、指導者やアスリートに伝えていく。そしてアスリートが家族や周囲の人に広めていくことが、スポーツを楽しむ環境を50年後、そして100年後の子供たちに残すことに繋がるのだと思います」というJOCの環境メッセージを伝え、締めくくりました。

 すべてのプログラムが終了し、閉会の挨拶として小谷実可子JOC常務理事が登壇者とパネリストへ感謝を述べた後、「今日様々なお話を伺って、もっとこんなことができるな、もっと仲間を増やしたいなという思いになったのはきっと私だけではないと思います。JOCとしても『人間力なくして競技力向上なし』の人間力の部分を上げるためにも、環境保全問題含めて、SDGs活動を皆で学び共に歩んでいけたらと思いますので、ぜひNFの皆様、指導者の皆様、ご協力をこれからもよろしくお願いします」と総括し、カンファレンスを締めくくりました。

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