ジェンダーのダブルスタンダード（二重規範）とは女性に対する評価の判断基準が男性とは異なる基準で使用されることであり、もともとは性に関する活動における男女の態度の許容に関して使用されていた（Ehrmann, 1959）。（女性では不適切とされる性行動も男性では賞賛される、等）

しかしながら、性活動に限らず、女性が社会のジェンダー規範や社会の期待から逸脱しようとした時に、ジェンダーのダブルスタンダード（二重規範）が同じように適用される。

この基準は女性として好ましい態度、役割、行動といった社会の規範が基盤となっている。男女の違いを論ずる言説においては、男性と女性（男児と女児）は異なるものであり、その違いが態度や見た目、話し方にも影響を与えている（Jackson and Tinkler, 2007）。

社会生活において人々の行動は法律などの公式な統制だけではなく、社会の規範や期待といった非公式なものにも統制されている。男性が公式な場面においても非公式な場面においても優位な社会において、男性と異なる基準が女性への評価や統制に適用されることがある（片山, 金井, 2009）。

ダブルスタンダードと似たような言葉として、「ダブルバインド（二重拘束）」という概念もある。女性性の高い女性リーダーは、リーダーとしての資質を欠いているとみなされ、男性性の高い女性リーダーは女性として不十分と批判されることである（例えば、男性のように話すと同僚たちから「攻撃的、押しが強い」とみなされ、女性らしく話すと、「あやふや、煮え切らない、弱い」などと評価される、など）。

「女性らしさ」という期待と、「適切なリーダー」への期待が一致していないために、「面接時に何を着るか」や「重要な会議をうまく乗り切るための適切な感情表現とは」など、女性はさまざまな複雑なことに直面する（Holmes,2006; Eagly et al., 2014など）。

スポーツ界の女性リーダーが直面するダブル・スタンダードの例として以下のものがある。

ダブル・スタンダードの例

女性アスリートの不満は女性が対応する。

女性は男性よりも高い基準を求められる。

女性と男性のパフォーマンスは異なる基準で判断される。

同等の成果を出しても男性より女性の方が賃金が低い。

同じ行動を行っても、女性の方が罰則を受ける場合がある。

男性は女性よりも知識やスキルが高いと思われる。

など（Lavoi, 2016）

スポーツ界に見られるジェンダーのダブルスタンダードの例

・引退後の男性アスリートは不屈の精神、強さ、エネルギー、生命力を保持する理想の身体の見本として扱われ、年を重ねていくことへの成功したロールモデルとなる一方で、引退した女性アスリートは競技から離れ、サポートする役割として、スポーツイベントのアンバサダーという役割を担い、年を重ねることは高い競技性を衰退させるネガティブなものとして扱われる（Stan, 2017）。

・優勝したチームが公の場でアルコールを用いながら盛大に勝利を祝うことに対して、男性チームスポーツでは前向きな賞賛として許容されるが、女性チームは、ロールモデルとしてのアスリート規範の逸脱として問題となった（Edwards, Jones & Weaving, 2013）

・男性指導者と女性指導者は同等の競技成績を収めても、同等のパフォーマンスとして評価がされない。女性指導者がその成績を収めることができたのは、外的な要因（相手チームや予選ブロックが良かった等）が影響を与えていると評価がなされてしまう。そのため、男性指導者と同等の評価を受けるためには、男性指導者よりも高い成績を残さなければならない（Lavoi, 2016）。

・男性指導者は女性指導者よりも、その競技に対して理解が深く、知識やスキルが高いと思われている。同等の役職についても女性指導者の方が賃金が低い（Lavoi, 2016）。

・女性アスリートの不満や課題（人間関係や集団生活、メンタル面のケアなど）は自動的に女性が解決するものであると考えられている（Lavoi, 2016）。

Edwards, L., Jones, C., & Weaving, C.（2013）. Celebration on ice: Double standards following the Canadian women's gold medal victory at the 2010 winter olympics. Sport in Society, 16（5）, 682-698. doi:10.1080/17430437.2012.753524.

Eagly, A. H. et al.（2014）. Female Advantage: Revised. In S. Kumura , R . Simpson, and R.J. Burke（Eds）. The Oxford Handbook of Gender in Organization. NY: Oxford., pp.153-174

Ehrmann, W.（1959）. Premarital dating behavior, NY: Henry Holt.

Holmes, J.（2006）. Gendered talk at work: Constructing social identity through workplace discourse. Malden, MA: Blackwell.

Jackson, C., & Tinkler, P.（2007）. 'ladettes' and 'modern girls': 'troublesome' young femininities. The Sociological Review, 55（2）, 251-272. doi:10.1111/j.1467-954X.2007.00704.x

LaVoi, N.M.（Ed.）（2016）. Women in Sports Coaching. London: Routledge.

Pilcher, J., Whelehan, I., 1960, 片山, 亜, & 金井, 淑.（2009）. ジェンダー・スタディーズ. 東京: 新曜社., pp.45-53.

Stan, M.（2017）. Unique or double standard to aging in sports? Case of retired gymnasts. Journal of Comparative Research in Anthropology and Sociology, 8（2）, 85-102.