2011/05/08
フィギュアスケート世界選手権:日本は男子が銀、女子が金の活躍
日本の代替開催としてロシアスケート連盟により開かれたフィギュアスケートの世界選手権(4月25日〜5月1日)。大震災の影響も懸念されましたが、チームジャパンは、安藤美姫選手が金メダル、小塚崇彦選手が銀メダルと、それぞれ実力を発揮する大会となりました。
■小塚崇彦選手が悲願の銀メダル
日本男子は、ショートプログラム(SP)で織田信成選手2位、高橋大輔選手3位、小塚崇彦選手6位と、全員がメダル圏内で発進しました。
翌日のフリースケーティング。最終グループ一番滑走のパトリック・チャン(カナダ)が、4回転ジャンプ2本を含む圧巻の滑りを見せ、総合280.98の歴代最高得点をマークします。スケーティングのスピード、ターンやステップの正確さ、ジャンプの大きさ、どれを取ってもフィギュアスケートの理想といえるお手本のような滑りで、残る5選手にプレッシャーをかけました。
日本から最初の登場は織田選手。SPで決めたような流れのある4回転トウループを期待されますが、3回転になってしまい、さらにジャンプのルール違反を犯します。結果として232.50点で大きく引きはなされる結果に。続くアルテュール・ガチンスキー(ロシア)が4回転を決め、241.86と高得点をマークすると、織田選手はメダル圏外となります。
そこでメダルへの期待がかかったのは、バンクーバー冬季オリンピック銅メダリストの高橋選手。しかし、スケート靴とブレードを固定しているネジが壊れるアクシデントで、演技を中断します。応急処置をして最滑走しましたが、実力を発揮できずに総合232.97点で、この時点で4位。日本のメダルは小塚選手の肩にかかりました。
祖父の代から続くフィギュアスケート一家に生まれたサラブレットの小塚選手。今シーズンのテーマは「独立」でした。試合前の食事の準備や、道具の用意、振付師の選択や練習内容まで、親や佐藤信夫コーチに任せっきりだった生活を一新。「何でも自分でやる。自分に責任を持つ」と決めてシーズンを過ごしてきました。その結果、10月〜12月のグランプリシリーズではファイナル3位、12月の全日本選手権では初優勝と、勢いに乗って迎えた世界選手権でした。
そして迎えた小塚選手のフリー。なんと本番で、初めて4回転トウループをクリーンに決めます。そのまま波に乗ると、すべてのエレメンツを完璧にこなし、銀メダルを獲得しました。「自分が何をするべきか分かって、冷静に演技できました。自分を信じることが出来るだけの練習をしてきていたから」と小塚選手。
課題といわれてきた演技面も、プログラムコンポーネンツで82.26と、高橋選手をしのぐ高い評価を得ました。「実力を出し切るという考えではなくて、力を自分でコントロールできる事が大事だと分かりました。技術をコントロールできるから、パフォーマンス(演技)にも良い影響が出る。もっと実力を上げることが、自分の課題だと思います」。これまで技術の正確さばかり注目されてきた小塚選手でしたが、正確さを追及したその先に、演技全体をひとつのストーリーのように切れ目無く見せる演技力という新しいステップに踏み出したのです。
トリノ冬季オリンピック以降、高橋選手がけん引してきた日本男子に誕生した新たなエース。ソチ冬季オリンピックまでの現役続行を高橋選手も宣言し、これからの3年間、日本男子が凌ぎあい磨きをかけていくスタートとなる一戦でした。
■安藤美姫選手が意味のある金メダル、浅田真央選手は忍耐のシーズン
日本女子は、SPで安藤美姫選手が2位、浅田真央選手が7位、村上佳菜子選手が10位の発進。フリースケーティングでは、村上選手はジャンプでアンダーローテーション(90度未満の回転不足)があり得点が伸びず、総合8位となります。
SPで出遅れながらもメダルを期待された浅田選手。トリプルアクセルは、モスクワ入りする前からも含めて、練習でまったく成功していなかったといいます。そんな状態で本番にトライすることは「常識ではありえない」(佐藤信夫コーチ)ことですが、浅田選手は「挑戦したかった」といい、本番で挑戦。回転不足の両足着氷だったものの、転倒せずに耐えました。
佐藤コーチは「トリプルアクセルを跳ぶなというと、今度はやる気を削いでしまう。難しい判断。しかし定石とは違う部分があるのが浅田選手だということが分かってきたし、まだ分からないことが多く(コーチとして)消化不良なのですが、すべて来シーズンに向けてイチから作り直していきたいです」と語りました。
浅田選手にとっては、基礎のスケーティングを重視する佐藤コーチのもとに8月に移り、ジャンプフォームの修正と基礎力スケーティングの強化など、新しい課題へ一気に取り組んだシーズンでした。結果を出せないのは当然のことです。「すごく波のあったシーズンでした。単独のジャンプさえ安定しなかった時期を考えると、早く良くなったと思います」と浅田選手。このオフの間に、佐藤コーチ流の「基礎を先に固める」指導のもとでスケーティングをさらに磨き、その土台の上にジャンプを作り直していくことが大切です。
一方、安藤選手は、落ち着いた演技で好印象のフリーを滑りきります。SP首位のキム・ヨナ選手(韓国)を抑えて、日本人初となる2度目の世界チャンピオンに輝きました。
「今シーズンは練習を信じて本番に臨めるようになりました。コーチともすでに4、5年一緒にやってきて、お互いに言葉を交わさなくても良い練習をしていると分かる安心があります。それが納得のいく演技につながるようになりました」と安藤選手。
今シーズン、グランプリシリーズ2連勝、全日本選手権優勝、四大陸選手権で自身初の200点超えと、もっとも安定した成績を残してきた安藤選手が、安定感を武器に頂点を極めました。
女子は、2011年世界ジュニア選手権の金銀メダルを獲得したロシアのアデリーナ・ソトニコワとエリザベータ・タクタミシェが来シーズンからシニアに参戦。ソチ冬季オリンピックに向けて、ジャンプも演技力もさらに質の高いものが求められていきます。オリンピック経験者の安藤選手、浅田選手がけん引力となり、日本女子全体のレベルを上げていくことが、これからの課題となりそうです。