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~第2章~
黎明期

「日本女子体育連盟(JAPEW)」(1954年設立)

証言者:高橋和子氏(日本女子体育連盟会長)

終戦から間もない1954(昭和29)年、日本女子体育連盟(以下、JAPEW)は「日本の女子体育の普及振興をはかり、生涯にわたる女子体育に関する研究と実践等の事業を行い、もってすべての人々の心身の健全な発達に寄与すること」を目的に発足した。翌55年に、戸倉ハル氏が初代会長に就任し、今年(2019年現在)で64年を迎えたJAPEW。6代目の会長を高橋和子氏が引き継いだ。

国際女子体育会議の開催に向けて

1957年に国際女子体育連盟に加入したJAPEWは、第6回国際女子体育会議を東京に招致した。戸倉初代会長を中心に、各県に散らばっていた約30名の女子体育教員を集め、組織化に奔走したが、戸倉会長は日本での開催を目にすることなく他界してしまった。

その後、松本千代栄氏が会長に就任し、JAPEWは1968年に社団法人としての新たなスタートを切ることとなった。そしてついに1970年、国立劇場に26ヵ国から600名の参加者を集め、第6回国際女子体育会議を成功裏に終えた。

「女子体育」の名称をめぐって

初代会長の戸倉ハル氏から、松本千代栄氏、川口千代氏、片岡康子氏、村田芳子氏、現会長の高橋氏まで、ダンスを中心に発展してきたJAPEWであるが、連盟の発展を考えて行くなかで、「女子体育」という言葉の使用をめぐる議論もあったという。

今よりもさらに女性の体育教員が少なかった時代にスタートしたJAPEWは、国際会議を通じて組織化され、女性の体育教員が「つながる場」として、また男性中心の体育教育の世界から一線を画し、女性の地位や職業を守る場としても機能していた。特に男女雇用機会均等法が成立する30年も前に立ち上がった当連盟の存在意義は、特筆すべきものであるだろう。

2013年に公益社団法人として、JAPEWが新たなスタートを切った年に、高橋氏は会長に就任している。初代会長がJAPEW設立に奔走していた頃から比べると、女性に対する制度や見方、また女性スポーツ自体が大きく様変わりしている。

このような変化に対して高橋氏は、「女性と子どもを主体的に考えるという趣旨は残しつつも、JAPEWを支えて行こうと考える男性がもっと入ってきてもいいのではないか」と考えている。これまで男性がJAPEWに入ってくることに慎重な意見もあったようだが、現在は役員の中に男性もいて、ともにJAPEWを支えてくれているという。

それでも「ダンス」にこだわる理由

具体的活動はダンスが中心であるが、JAPEWでもダンスだけを「女子体育」として扱ってきたわけでもないと、高橋氏は指摘する。実際、国際女子体育会議で扱われる議題も、肥満を解消するための体育や紛争解決のための体育の役割など、さまざまであるという。しかし、女子体育教員が舞踊の専門家として割り当てられ、女性=舞踊・ダンスのイメージは根強い。高橋氏によると、「国際的にも日本は特にダンスにこだわってきた」という。

Physical Educationである体育は、競技至上主義や効率主義といった価値観から距離を置く教科として学習指導要領に盛り込まれた。高橋氏は、「体力のある子ども」「子どもの体力づくり」にばかり注目が集まるなか、「体ほぐし」の言葉が学習指導要領に追加されたことを高く評価する。「体ほぐし」の本来の意味は、ただストレッチをして体をほぐす、というものではない。「子どもたちの気づきや自ら考える力を養う」機会に通じるものであり、それこそがダンスの持つ力なのだ。それは、きれいに皆と合わせて踊って見せることや、誰かが作ったものをそのまま踊るといった類いのダンスではない。 JAPEWの歴代会長たちがみな、学習指導要領の策定や改訂に関わってきたことも、ダンスを通じた価値観の継承につながった。

高橋氏が「体ほぐし」にもとづくダンスを強調するのは、カール・ロジャースの心理学を日本に紹介し、自身も人間中心のHumanistic Educationを提唱した伊東博氏に師事してきたこととも関連する。人間は主体的に考え、創造する力を持っているということを認め、その上で教育をしていくというHumanistic Education。東京2020に向かってオリンピック色が高まり、スポーツの価値が競技至上主義に偏りがちな今日において、あらためてPhysical Educationの意義を問い直す契機も高まって欲しいと願う。

将来に向けて

「プランを立ててそこに連れて行くのがいい授業だといわれているが、教師は授業の中で何が起こっているのかを見られる人じゃないといけない。教える方も学ぶ方も悪戦苦闘するが、その悪戦苦闘ぶりを見せてもいいと思っている。教員が自分のやりたい方向へ子どもたちをどんどん導いて行ってしまうから、体罰が起こってしまうのではないか」。高橋氏はこう語る。

「これからの指導者には、誰もが創造的で自分らしさを発揮できるという捉え方をして欲しい。自分のからだの左右差に気づいたり、自分のからだが今どういう状況なのかなど気づき、どうすればいいかを考えられる人を育てる指導者が増えていって欲しい」と締めくくった。

postscript取材後記

体育授業の中で、自然探索やタケノコ掘りを実践してきた高橋和子氏。Physical Educationとしての体育の奥深さを熟知し、実践している方であった。女子体育=ダンスというステレオタイプは未だ根強くあるものの、戦後間もなく創設されたJAPEWが、男性優位の「体育の世界」で女性体育教員のネットワークの場として機能してきたことを、その時代を知らない私を含む者たちは忘れてはならないだろう。またステレオタイプと切り捨てる前に、女性たちがダンスを通じてどのような価値や思いを大切にしようとしてきたのか、そのことにも思いを馳せたいと思った。


体罰や性差別問題が未だ解決されないまま、オリンピックムードはますます熱気を帯びている。スポーツとは何なのか、疑問ばかりがわいてくる今日において、主体性、創造力、気づきを高めるダンス教育に長年、注力してきたJAPEWの存在を、私はあらためて評価したい。


山口理恵子(城西大学 女性人材育成センター所長、経営学部 准教授)