~第3章~
萌芽期
「女性スポーツ財団日本支部」(1981年設立)
証言者:三ッ谷洋子氏(WSFジャパン<女性スポーツ財団日本支部>代表)
米国では、1974年にプロ・アマ・競技種目に関係なく、女性スポーツの地位の向上を目指すWSF(Women's Sports Foundation:女性スポーツ財団)が誕生した。当時、フリーランスのスポーツジャーナリストとして、オリンピックを初め内外のスポーツ事情を取材していた三ッ谷洋子氏は、日本にも同様の組織が出来ればと思い、1980年に「第1回国際女性スポーツ会議」を企画・開催し、翌1981年12月にWSFジャパンを設立した。三ッ谷洋子氏は、その創設者であり代表でもある。
発足の経緯
1970年代、日本は高度経済成長による生活水準の向上と、1964年の東京オリンピックを切っ掛けに、それまでスポーツに縁のなかった主婦がバレーボールやテニスを始めるようになったことで、女性スポーツの人口が急激に増えていた。それにともない、成人男性を想定した従来のスポーツ振興策では対応できない問題も出てきたが、当時のポーツ界には女性ならではの問題を取り上げたり公に意見を述べたりする場はなかった。
一方、米国では1974年にWSF(Women's Sports Foundation:女性スポーツ財団)が誕生し、女性スポーツの発展と振興を女性の手で推し進めていた。日本でも同様の組織の必要性を痛感し、1980年に「第1回国際女性スポーツ会議」を企画・開催した。しかし、内外のパネリスト招聘を通じて、日本と外国のスポーツ文化に対する意識には雲泥の差があることを知った。海外の選手たちは二つ返事で快諾してくれたが、日本の女性たちは承諾を得るまでに時間がかかり、かつての有名選手でも会議の受け皿となるべき組織委員会の責任者になることを固辞した。
いずれにしてもこの会議自体は大きな反響を呼び、2回のフォローアップセミナーでも女性スポーツへの関心が高かった。しかし、組織がないため一過性の盛り上がりで終わっていた。「誰もやらないので、とりあえず私が代表をつとめます」と覚悟を決め、1981年12月にWSFジャパン(女性スポーツ財団日本支部)を設立した。
活動の内容
今日の日本のスポーツ界では多くの女性が活躍しており、オリンピックや国際大会では彼女たちを抜きには語れない時代になった。地域の指導現場でも多くの女性が実績を上げ、かつては男性のスポーツと思われていたラグビーやボクシングにも、女性が挑戦している。このようにスポーツが女性の手にも簡単に届くようになったとは言え、昔からスポーツは女性ならではの社会的?肉体的な問題を抱えていることを忘れてはならない。
日本のスポーツ団体の役員は圧倒的に男性が占め、中・高校の部活動では発育期にある女の子の心理や生理を無視した教師が指導者となっていることもある。WSFジャパンでは、それらの問題を含め、プロ・アマ・競技種目に拘わらず、専門性を乗り越えて自分たちの手で解決していってこそ真の女性スポーツの発展があると考え、機関誌WSF Japan Newsの発行や勉強会、セミナーなどを開催してきた。
女性活躍への思い -Boys and Girls be ambitious !-
女性の活躍には、男性の理解と協力が不可欠であることを強調したい。また、指導者は男性と女性には様々な違いがあることを理解して欲しい。それがなければ、女性の数だけを増やしても何の意味も持たない。
これまでは男性の視点だけだった日本のスポーツ界に、女性の視点をプラスすることはとても意義のある取り組みだと思う。女性自身も「自分なんて」と尻込みせずに、勇気を持ってしっかり意見を言うことが求められている。女性が黙っていることは、社会から見れば意見がないことと同じだと理解されてしまう。意見を述べれば当然、責任を伴い自分を律する必要も出てくるが、これは男性がずっとやってきたことでもある。
私自身は、渦中にいるとなかなか意見を言うことができない女性たちに代わって、WSFジャパンという組織を作り、女性の立場から意見を発信してきた。この活動を通して、女性だけでなく男性にとっても、よりスポーツに親しむことができる社会が実現されると信じている。
取材後記
社会が変わるのは50~100年かかると言われている。だからこそスポーツ界において女性の支援が大事であり、女性がしっかりと声を上げることが大事だと三ッ谷氏は言う。「期待されて何かを任せられた時には、120%でお返しをする。出る杭が打たれるのなら、出過ぎて打たれないようにするといいのよ」と、これまでの自分の歩みを振り返り笑ってそう答えてくれた。
人の真似をするなと言われて育った。2匹目のドジョウは大嫌いとはっきりと言う。女性が意見を述べる場を作り、協力しあって女性スポーツを考える機会を作ってきた先駆者の姿に大変感銘を受けた。
伊藤真紀(法政大学 スポーツ健康学部 准教授)