長野1998
採れたて長野通信
スケート・ショートトラック男子500mで、19歳の西谷岳文選手が金メダルを獲得しました。清水宏保選手の金メダルで始まった日本選手の快進撃。閉会式を明日に控えて、しめくくりでもまた、氷上のレースですばらしいドラマが誕生しました。
このレースでは、メダルが期待された日本のエース・寺尾悟選手が準々決勝で転倒。敗退して、悔し涙を流しました。このときには、オリンピックの舞台で表彰台に立つことの難しさを痛感させられましたが、それから間もなく、オリンピックならではの感動的なヒーロー誕生劇が待っていたのです。
準決勝。みごとに決勝進出を決めた西谷選手は「このレースで自信がついた。今までにないレースだった。決勝もこの展開でいきたい」とコメントしていました。若さにとって大舞台は成長の場でもあります。西谷選手はオリンピックのレースで自信をつかみ、大きく成長したとさえ言えるでしょう。 おめでとう西谷選手、おめでとう植松選手。
現地直送!観戦レポート アルペンスキー男子回転(志賀高原)
競技会場は吹雪なのでした。
「さあ、木村選手のメダルを見に行くぞ!」。取材班が長野市内のMPC(メーンプレスセンター)から競技会場へ向かうシャトルバスに乗り込んだのは6時45分でした。競技開始の予定は9時30分から。土曜日で少し道がこむだろうからと、1時間以上の余裕をもって出かけたはずだったのですが、今朝の志賀高原は吹雪。バスの会場到着時間が大幅に遅れてしまったのです。結局、スタート時間の9時30分には、まだ会場の2kmほど手前で渋滞にはまったまま。取材班は、木村選手の1本目の滑りを見ることができませんでした。
取材班が会場に到着したのはほぼ10時に近い時間でした。同じように渋滞に巻き込まれ、やっと到着した一般のシャトルバスからも、ぞくぞくと観客たちが下りてきます。これで、もし木村選手が1本目で旗門不通過なんてことになっていたら最悪の事態です。不安な気持ちで会場に到着したのですが、木村選手はちゃんと完走してくれていました。よかった、よかった。
競技開始に遅れてしまったのはとても残念だったのですが、吹雪の中でけんめいに走り回ってバスの群れを誘導している現場のボランティアの人たちの姿には「みんなオリンピックを成功させるためにがんばっているんだ」と感じることができました。
吹雪にたたられた木村選手の1本目
期待の木村選手。無事に完走できたのはよかったのですが、タイムは「もうひとつ」という感じだったようです。56秒53。この時点で、トップと1秒47もの差がありました。順位は10位。メダルを狙うにも、3位の選手とちょうど1秒の差があります。逆転は期待したいのですが、厳しい戦いになっていることは間違いありません。がんばれ木村選手。
1本目終了後、最初から観戦していたファンに話を聞くと、ちょうど木村選手が滑るときに吹雪が強くなり、コースを滑る姿はほとんど見えなかったのだそうです。なんだか、ジャンプ団体の原田選手の1本目の状況のよう。信州の天気の神様は、日本選手に試練を与えるのがお好きなようです。こうなったら、原田選手が2本目に感動の大ジャンプを披露してくれたように、木村選手にも奇跡の大逆転を期待!
松岡修造さんも心配そうに・・・
木村選手の1本目終了後。会場にあるプレスセンター内のカフェで、元プロテニスプレーヤーの松岡修造さんにお会いしました。さっそく、コメントをいただくことに。
−木村選手の応援ですか?
「はい。去年、対談をさせていただいたことがあって、なんとしてもがんばって欲しいと思って応援に来ました」
−松岡さんご自身もスキーは得意?
「ハハハ、いえ。スキーはだめですね」
−同じように「世界の舞台」で勝負している(してきた)人として、木村選手にはシンパシーをお感じになりますか?
「シンパシーというよりも、とにかく彼はすごいと思います。今回のオリンピックにも、ギリギリで帰国して会場入りしたじゃないですか。日本でのオリンピックだから特別なことをするんじゃなくて、ワールドカップを転戦しているうちの、ひとつのビッグレースとして戦いに臨んでいる。視野が広い、世界的なんだよね」
−昨日は複合団体の応援にもいらっしゃってましたね。
「荻原選手の応援です。木村選手にしろ、荻原選手、原田選手、船木選手。世界を相手に第一線で戦っている人は、ほんとうにすばらしいですよ。少し話してみても、たしかにこの人は世界で戦ってるんだと思える言葉が聞ける」
−木村選手への期待はやっぱりメダルですね。
「そうですね。ただ1本目を終わってトップとは1秒以上の差がありますから、かなり苦しいですね。上の人の失敗を期待するしかないかな(笑)。でも、メダルはともかく、2本目も実力を出し切ってほしいですね」
イタリア選手にご用心?
1本目と2本目の間には、ポールのセッティングを変え、選手たちがコースを覚えるインペクションという作業のために2時間ほどの間隔があります。インスペクション開始まで30分ほどになったときのこと。ゴールエリアで観客を取材していると、ボランティアの女の子と話し込んでいるイタリアのテスカリ選手を発見。さっそく突撃取材を試みました。
近づいてみると、どうやらテスカリ選手はボランティアの女の子とピンバッジを交換していたようです。「2本目を控えてるのにさすがイタリアン。明るい人だな」などと思いながら、なんとかヘタな英語で取材して、写真を撮らせてもらいました。ボランティアの2人は明治大学学生の油井志津子さんと旅行会社勤務の松井淳子さん。選手と交流できてよかったですね。大きく遅刻した取材班は、1本目のリザルトをまともに確認できないまま観客取材を始めました。写真を撮ったあと「今日のコースコンディションはどうですか?」とテスカリ選手に質問したのですが、顔をしかめて「Very bad!」と無愛想に答えられてしまいました。あれ、女の子との会話を邪魔したから怒ってるのかな、なんて失礼なことを思ったのですが、プレスセンターに戻って、テスカリ選手が1本目でコースアウト、棄権してしまっていたことを知りました。それなのに「コンディションは?」なんて質問したのですから、無愛想になるはずです。おまけに別れ際「Have a good race」とまで言ってしまいました。あれれれれ。テスカリ選手、本当に失礼しました。
2本目を前に会場は盛り上がる!
2本目のスタート時間は午後1時。正午を過ぎるころからは、少し薄日が差してきました。雪の粒も小さくなったようです。2本目のスタートまで1時間あるというのに、スタンドはすでに超満員。
選手たちがコースを確認するインスペクションが終わるころ、フィニッシュエリアに見覚えのある方が2人登場。歌手の細川たかしさんとタレントの清水アキラさんです。空は少し明るくなったとはいえ、まだ雪が降り続く寒さの中、スタンドを埋めた観衆を前に、応援団長のように手拍子の指揮をして盛り上げます。
逆転を狙い木村選手の2本目がスタート
2本目の競技開始直前、びっしりと観衆が埋め尽くしたスタンドにウェーブが起こります。会場に訪れたファンは、木村選手への応援はもちろんですが、世界の一流選手たちの滑りを見られることが楽しみなのでしょう。どの国の選手が滑るときにも、大歓声で応援し、ゴールすると大きな喝采を送ります。滑り終えた選手たちも、それぞれの結果によってストレートに感情を表現し、観衆の声援に応えるのです。
この種目、2本目のスタート順は、1本目の順位が15位までの選手から順に15人が滑り、そのあと16位以降の選手が順に滑ります。1本目10位の木村選手は6番目のスタート。会場のオーロラビジョンにスタートハウスの木村選手が映し出されると、スタンドにはひときわ大きな歓声が起こり、無数の日の丸が振られます。さあ、がんばれ木村選手!
いよいよスタート。木村選手の滑りに合わせて、チアホーンが鳴りリズミカルな歓声が上がります。メダルへ向けて大逆転劇を演じるためには、なんとかこの時点でトップに立っていなければなりません。観衆は祈るような気持ちで、フィニッシュエリアのスタンドから見える木村選手の姿が次第に大きくなってくるのを見つめます。
中間点のタイムがオーロラビジョンに表示されました。それまでトップの選手に遅れています。スタンドから一瞬「あああ」という不安そうな声が響きましたが、次の瞬間には気を取り直したような大歓声が再び巻き起こりました。
残念、木村選手がメダルに届かず
木村選手がゴールに飛び込みました。2本の合計タイムは1分52秒15。この時点で4位。もうメダルには届かないことが確定しました。また、このあとに滑る10人は1本目で木村選手よりもいいタイムを出した選手たち。6人滑って4位では、入賞もほぼ絶望的になってしまったのです。
フィニッシュエリアで満員のスタンドに振り向いた木村選手が、誰かに謝るように両手を合わせます。残念。でも、スタンドからは無事に滑り終えた木村選手に、大きな歓声が送られました。
結局、木村選手は13位。1本目よりも順位を下げる結果に終わってしまいました。ほかの日本選手は平沢岳選手が20位、石岡拓也選手が21位。 レース後の記者会見で、木村選手は「メダルは欲しいと思っていた」と悔しさを隠しません。ただ、松岡さんも言っていたように、木村選手の戦いはこのオリンピックだけではありません。
「自分の滑りの中でここを直すというところは特にない。あとは積極性。これ以上プレッシャーのかかる試合はない。今日の借りは必ずワールドカップで返したい」と力強く語ってくれました。今回で3回目のオリンピック出場となる木村選手。できることなら、次のオリンピックでも鮮やかな滑りを見せてください。
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